台風の夜に不安を感じる大きな風の音がして、恐ろしいことを空想するよりも、楽しいことを空想したいなあと、床の中で考えた。

しかしながら、ごうごうとなる音の中で楽しいことを考えようにも楽しいことが浮かばない。テレビは音声を消して、映像のテロップだけを見る。次第に眠くはなってくるが、安眠できそうにはない。

天井を眺めていたら、手のひらの真ん中にある傷を見つけた。その傷を見て、僕はほっこりして安眠して眠れた。

一年前のことだった。

郵便局であわてて宛名と差出人を書こうとして、ボールペンを持って書こうとしたら、ボールペンを逆さまに持っており、筆圧をかけようとしたらボールペンの芯の先が手のひらの真ん中に刺さった。

「いてっ!」と、顔をゆがめてティッシュで血を拭き取り、落ち着いて宛名と差出人を書いて切手を買いにいくと、郵便局の窓口の男性の方が「手を切ったんですか?」と言ってきた。

「はい、ちょっと急いでいたら、でも大丈夫ですよ」と言うと、その男性は「ちょっと待ってください」と言って奥に向かって歩いて行った。その男性は足を引きずっており、もともと足の不自由な方のようだった。

5分ほど待って、なぜ待たされているのかなあ?もしかしたら保険か何か勧められるのだろうかと疑問がわいてくるころ、男性の方は足を引きずりながら「あった!あった!」と言って頭にホコリをつけながら、絆創膏を持ってきてくれたのだった。

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「ありがとうございます!」

僕は絆創膏をもらうまで、なんて狭い心で待っていたのだろう、と反省した。

それから台風の日に郵便局に寄ったときに、僕は郵送物をだそうとするときに切手代を払おうとすると、受付にその男性がいた。その男性は僕のことを覚えていなかったが、僕から手のひらを見せて話を切り出した。

「一年くらい前、手のひらにボールペン刺さったとき、あのとき絆創膏くださってありがとうございました!」

その男性は「え?」という顔をしたが思い出して笑顔を見せた。

「台風、気をつけましょうね」

「台風、気をつけましょう、お客さんも」

その男性は仕事に誇りを持っているなぁと感じた。台風であたりは自宅にこもっているような夕方ではあったが、その方が台風のあとの朝は飛んできたゴミなどの掃除を郵便局前でする姿が寝る前に思い浮かんだ。

すると、自然に眠くなるのだった。

俺も、明日は掃除をがんばろう、そう思って寝た。なんのこともない日常のお話。でも、ふと思い出した。

1本のボールペンから生まれた話。

本当に、ありがとうございました。